串原養豚
石原 弦さん
農業人
すまいるふぁーむ阿部農園
恵那の市街地から南西に向かう県道を車で走って10分。
緩やかな坂道を上がりきったところからは、北には笠置山、遠く東には中央アルプスが見える絶景スポットです。
とにかく、清々しい景色!
すまいるふぁーむ阿部農園は、その見晴らしの良い土地にあります。
農業用ハウスが立ち並び、夏はトマト、冬はイチゴ、ネブカネギを栽培する農園です。
お話しを伺った2月はイチゴの最盛期で、農園の手前に建てられた販売所の前には『いちご直売所』の昇り旗が目印になり、多くの人がイチゴを買い求めにやってきていました。
「販売所にはお客様一組ずつ入っていただくなど感染症対策に取り組んでいます。屋外で並んでお待ちいただくのは心苦しいのですがコロナの間は仕方ないですね。」
長い髪の一部をイチゴカラーに染めた代表の阿部真奈美さん。
甘いイチゴの香りがいっぱいの販売所では、女性スタッフがイチゴのパック詰め作業をしていました。パックの上に貼られた阿部農園のロゴシールがとってもかわいい。
阿部さんが農家をはじめたきっかけは、近所のトマト農家さんからの誘いで栽培をお手伝いされたことがきっかけでした。
「どれがトマトの樹?ってくらい何も知らなかったんです。やってみると面白くって。これなら子育て中でも子どもの傍に居ながら一人でできるかなあと思って。
はじめは農業で食べていこうなんて思ってなくて。やっていくうちに、自分の農園がもっと良くなるためにはと考えていったら今の形になったんです。はじめから企業にしよう、会社にしようとは思わなかったです。楽しかったから、ちょっとずつ、ちょっとずつ突き詰めていったんです。」
阿部さんのイチゴを買いにくるお客様は、地元に住む方がほとんど。
地元の方との交流を大切にしていらっしゃる阿部さんのお人柄でしょうか。
「はじめは、農業はひとりで完結できる職業と思ってたんです。複雑な人間関係がなくて気楽だなぁって。でも、農園を気にしてくれる近所の人から声をかけてもらったり、地元の人たちが買いにきてくれると、田舎暮らしって良いなあと感じます。ひとりでやっているような気になるけれど、ひとりではない。地元に応援されるような農園にしたいです。どんどん関わっていきたいですね。」
直売所で販売されているイチゴはほどんどが“章姫”ですが、ハウスの中には“紅ほっぺ”、希少な“白イチゴ”や“よつぼし”といった珍しいイチゴも栽培されています。
「このスペースは私の趣味でつくってるみたいなもんです。食べたら美味しかったので、つくってみたかったんです。
うちのイチゴの主力品種は“章姫”です。これも私が美味しいと思った品種です!
いちご狩りに来た人が摘みたてを食べて「美味しい!」と思ったあの瞬間をパック詰めしたくて、うちではできるだけ完熟で収穫しています。完熟すぎて、パック詰めすると身がこすれて傷ができてしまうことも。ロスも出ます。それでも完熟収穫にこだわりたいんです。うちの最大のこだわりですね。
栽培にもこだわりがあります。
はじめて農業のお手伝いをしたとき、農薬をかける回数が多くてびっくりしたんです。
子どもを育てる母親として不安に思い、できるだけ使わない方がいいと感じました。
自分の農園では農薬散布以外でできることを選んでます。
イチゴについては収穫シーズンに数回だけ。風を送ったり、イチゴに大敵なダニの発生を抑えるために天敵を放ったり、点滴方式で井戸水を放水することで飛び散らず病気が広がりにくい環境をつくっています。他にも葉をこまめに取り除いたり、UVランプを照射するとか、硫黄を燻煙したり。カルシウムを水と一緒にあげたりもしてます。
最初は苦労しました!
農薬かけなきゃいいじゃんと思って使わなかったら全滅したこともあって。むやみに使わなきゃいいってのもダメかぁ~って(笑)
簡単に減らせないですよ、それからは適度に使いながら農薬ゼロに近づきつつ、できる限りの努力をしています。
イチゴが病気にならないよう、よく注視して防ぐ努力と、なってしまったときの対処を考えながら栽培しています。」
阿部さんは5人の子どものお母さんです。
下のお子さんは障がいをもって生まれてきました。子育てのなかで障がい者の現状を知り、自分にできることはないか考えるようになりました。
「農業って福祉と相性が良いんです。凹と凸が合うような気がして、それならやってみようと。
農業経営の最終的な目標が障がい者の人たちと一緒にやっていけるような「農福連携に取り組む企業」と決まったので、きちんとした形にしたいと思うようになりました。」
農福連携とは……障がい者等が農業分野で活躍することを通して、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組です。 農福連携に取り組むことで、障がい者等の就労や生きがいづくりの場を生み出すだけでなく、担い手不足や高齢化が進む農業分野において、新たな働き手の確保につながる可能性もあります。
「はじめは、障がい者の子に直接教えながら作業をしていました。
でも、ひとりひとり個性が違うので、うまくいかないことがあったんです。分かるにも時間がかかりました。
今は福祉事業所を通して雇用をしています。
事業所のスタッフさんが、土をポットに入れる簡単な作業でも手順を写真に撮り説明書をつくって伝えると、作業がスムーズに進んだんです。
このプランターにはこれをいくつ入れるんだよ、とか、細かな指示をわかりやすく伝える説明書です。
これを事業所さんがやってくれることで、みんなが取り組みやすいということがわかりました。
本当、助かってます。」
「農業は黙々と同じ作業を続けることが多いです。実直な障がい者には向いている仕事です。
また、農業の現状としてはどこも担い手不足に悩んでいます。来てほしいばっかり。
障がい者のお母さんたちに会ったとき、子どもに合った仕事に就けるか不安に思う人が多くて。農業と障がい者はお互いが補うような、ウィンウィンな関係だと気づきました。
実際には大変なこともありますが、企業としてやるべきことだと思っています。」
「農園を良くするために、これからもやりたいことだらけですよ。
大きな目標は『農福連携の取り組み』。
そして、若い子から「ヤバい」って言われるような農園にしたいですね(笑)
子どもたちは良い意味でも「ヤバい」って言うんですよ、面白いですよね。
若い子たちが「あの農園、ヤバいよ」って言って、職業として選んでもらえるような魅力的な農園にしたいです。そのためにも会社として働く環境を良くしていくことも必要です。
まずは、私自身が楽しめるように!そして持続することが可能な方法を選んでいきたいです。
少しずつ、楽しみながら、続けていきたい。みんなでね~」
イチゴカラーの髪からは、甘い香りがほんのりしていました。
それはとても優しい、清々しい香りに感じました。
◆すまいるふぁーむ阿部農園
イチゴ狩りも出来ます。詳しくは下記URLから
https://abenouen.storeinfo.jp/pages/4620152/page_202102051538
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